そういやあと振り返れば、
もう足掛け5年以上にもなろうかという長さの付き合いで。
子供のうちは、なかなか時間が過ぎてかないとか言うけれど、
それを見守る側にすりゃあ、
びっくりするほどいきなり大きくなっていて驚かされるもんだよとは、
年の内、数えるほどしかお顔を合わさない間柄に限ってのことで。
毎日一緒にいるお身内もまた、
“大きくなったよねぇ”という実感は、これがなかなか沸かぬというから。
そういうお立場にいる人もまた、
子供らと一緒の生活の中、
時間の流れをゆっくりと感じていられるものなのかもしれない。
なりふりかまわない子育てですもの、
所帯臭くなっての老け込むのも早い…なんて思ってちゃあいけませんぜ?
溌剌しておいでだからこそ、
すっぴんでコンビニまで出掛けられるのだし、
ほうれい線が気になるぅなんて、鏡と始終にらめっこしてないからこそ、
笑顔が素敵なまんまでいられるんですよ、本当に。
“…何の話へ脱線しとるか。”
あ、すまんすまん。
あの坊やとの付き合いも、随分なそれになったよなぁって、
お話ししかけてたんでしたっけね。
そうそう、出会いは何とも突然で。
でもって、まさかにこういう永のお付き合いをする間柄になろうとは、
恐らくは思いもしなかった双方で。
微妙に複雑な環境で育っておいでだった小悪魔坊やは、
自分よりも遥かに年上、
体格だって大きい“大人”たちを向こうに回しても、
決して媚びることはなく。
甘える様さえ、愛らしい風貌を生かしての単なる演技。
まだまだ幼いはずなのに、
相手の気分を絶妙に読んでの畳みかけるわ、
PCやモバイルをフル回転で活用し、
思わぬ方向から途轍もない報復を仕掛けるわ。
金髪に金茶の双眸、すんなり華奢な腕脚という、
まだまだ少女のような佇まいなのへと油断をすれば、
それは手痛い反撃を喰らうこと必定の。
類い希なる天才児。
そんな坊やと、初対面の折にはもう、
向こう様からその恐るべき正体を明かされていた、
こちら、葉柱さんチの次男坊はといえば。
親御が代々政治家で、
しかも現在ただ今、父上が都議を務めているというに。
大型バイクを乗り回し、
近隣の繁華街のやんちゃたちをしっかと統括してもいた、
いわゆる“不良”の頭目を張っておいでだった恐持てで。
そんな“素行”も怖いが、ご本人の風貌もなかなかのそれ。
吊り上がった三白眼に、肉薄の口許。
体躯もまた、何百キロとあるバイクを自在に引き回せるだけの、
雄々しくも鋼のように鍛え上げておいでなその上へ、
文字通りの“肉弾戦”を繰り広げる男のスポーツ、
アメフトに夢中と来たもんで。
『アメフトは後づけだったんだけどもなぁ。』
何か違うぞ、こいつと。
第一印象からは
“もう縁を結ぶこともなかろ”とあっさり見切った存在だったはずが、
そういや、こっちから気になっての追っかけてしまった、
そんなお兄さんだったのは初めてだよななんて。
素直じゃあない言いようで告白してくれたのは、
どのくらい経ってからのことだったやら。
バイク乗りなことから、
毎日のように“迎えに来い”コールを掛けて来るわ、
その他の場面へもタクシー代わりみたいに扱うわ。
葉柱が真剣本気でその統率を担ってるアメフトチームへも、
ちょっとばかりの随分と、詳しい身だったもんだから。
もっと気ィ入れて 走れのぶつかれのと、
キャプテン以上に激しい叱咤激励を飛ばしてくれての、
気がつけばずんと早いペースで基礎力が伸びた皆だったりしで。
“そっちはまあ、悪い話じゃあなかったわけだが。”
子供だと思って舐めんなということか。
喧嘩腰というのとも微妙に違い、
いつだって昂然と顔を上げ、胸を張り。
ただそれだけでは収まらず、
泥棒や強盗団などなどを、
その鼻面引き回してのお縄にしたようなお手柄も数知れず。
怖いもの知らずにもほどがあるぞという、
途轍もない行動派。
自力救済がほとんどながら、
時にはこちらのバイクや体格、腕力などをアテにされるようになりの、
気がつきゃ完全に仲間扱いで。
一端の大人扱いしなければ、むうと膨れるところもまた、
可愛い子ぶりこをしないでいい相手だと、
気の置けないところを買われていたからこそであり。
そんなお付き合いはやがて、
演技では無さそうな、
微妙な含羞みや甘えの態度を引っ張り出してもいたようで。
何年も逢えずにいた実父の帰還後も、
お父様のほうへ“そんじゃそういうことで”と手を振って。
こちらへ駆け寄り、容赦なくの飛びつくと、
構え構えと懐いてくれて……。
…………。
室温のやわらかな暖かさのせいだろう。
放っておいて丸みをおびてきた氷塊が、
タンブラーグラスの中、コロンと底まで落っこちる。
この自分が、
何にか飢えての荒んでた末に、
バイクを乗り回していたってワケじゃなかったように。
あのおチビさんだとて、
愛情に飢えてとか詰まらない毎日だからとか、
そんなヒネようから、
破天荒な行動を取ってたワケではなかろう。
言えば構ってくれる大人たちもたんといて、
何より、お母さんのことも大切にしていたし。
そう、本当は優しい心根をしている子でもあり、
ちょっぴり頼りないお友達を、
判りにくい格好ながら、守ってやってもいたようだったし。
“……うん。”
悪い奴じゃあなし、
最初の小生意気な印象が霞むほど、
判りやすくも無邪気なお顔をするようになったのは、
こっちへの警戒が薄れたせいだとするならば、
それが嬉しいと思える自分は相当に、
あの小悪魔さんに馴染んでの、感化されて来たってことで。
「…………4、3、2、1、ゼ」
アナログタイプの電波時計を壁に見上げて、
日が変わる間合いまでを、ついつい口に出しての数えておれば。
だぁんっ、と
思いっきり扉を開けた侵入者が、約一名。
ドアノブに小さな手を引っかけたまま、
ぜいぜいと肩で息をしている辺り、
この邸内をも駆けて来たらしいことが伺えて。
後を追って来たのだろ、
執事の高階さんのお顔も後ろに見えたが、
そちらへは小さくかぶりを振って、
もういいからとの合図を一つ。
「こんな夜中によく出掛けてこれたよな。」
「〜〜〜〜〜〜〜っっっ。///////」
「そうか、もしかせんでもお父さんを撒くのに手間取ったか。」
「〜〜〜〜、それは、ルイがっ。」
「何だって? 聞こえにくいぞ?」
「〜〜〜〜〜〜っっ!!!」
んきぃ〜っと細い眉を吊り上げてから、
立ち尽くしていた戸口をスタート地点として駆け出すと。
小脇に抱えていた何かの包みごと、
えいやっと跳びはね、
小ぶりのソファーに腰掛けてたこちらの懐ろへ、
ぼすんっと飛び込む機敏さよ。
腹の上へ思い切り着地されての跨がられた側としては、
「痛ってぇな、何すんだ。」
さして重くもないとはいえど、
ここは非難の声明上げてもよかろと抗議をすれば、
「うっさいなっ。
大体、父ちゃんが出掛けるの阻止しまくったのは、
ルイがわざわざ、25日は誕生日だなんて言ったからだろがよっ!」
ホントはもっと早くに、
ガッコあったけど、
そんでも夕方ごろに来るつもりだったのによっ!
「ガッコの前まで迎えに来るわ、
そのまま、美味しいおでん屋を見つけたから
食いに行こうって連れ出されるわ。」
その店に着いたら着いたで、
何でどうしてだか、母ちゃんだけじゃなくって、
阿含とか桜庭とか進もセナもいて。
「挙句、こんな時間まで粘られてよっ!」
「………………大人げねぇのな。」
まったくだと、大きく頷いた小悪魔様。
鼻息荒く頷いたそのまま、
抱えて来た包みを“ほれ”と向かい合うお兄さんへと押しつける。
「ありがたく受け取れよな。」
「ほほお………おお、こりゃあ凄い。」
誰かに見られても何だったからよ、
寝る前とかにしか編めなかったんだぞ。
さすがに、これへ直接妨害して来るほど、
考えなしな父ちゃんじゃなかったけどよ。
そんでも構え構えってうるさくて…と。
相変わらずに
誰が誰のことを話しているやらというお話を聞きながら、
葉柱が包みから取り出したのは、
シックなチャコールグレーのノルディック風ヤーンで編まれた、
結構な仕上がりのセーターだったりし。
「相も変わらず器用だよな、お前。」
たとえ女の子でも、
もちょっとお姉さんでもなけりゃあ、
なかなかセーターなんて大物は編めないぞと感心すれば、
「だってよ、
ルイの場合は既製品じゃあ間に合わねぇじゃんか。////////」
だからしょうがなくだ、なんて、
怒ったような言い方をするものの。
腕が長いだけじゃあなく、上背だって鍛えていて分厚い身、
サイズの大きいのを選んだならば、
結構間に合う場合もなくはないのだが……。
「ありがとな、大事に着ような。」
「あ、ああ。//////」
小さな手と腕で、こんな大物を編むなんて。
手先が器用なら出来るってものじゃなかろうて。
どんどんと重く大きくなるのをお膝へ乗っけて、
えいえいと頑張ったのだろう小さな背中とか、
そんな愛らしい途中経過へもついつい想いが及んだようで。
目許を細めた葉柱のお兄さんだったものの、
「……で、お前は何しとるか。」
「どうせまだ家へは誰も戻ってねぇかもしんねぇし。」
お母さんが入院先で大変なのって言ってタクシー止めてよ、
ここの裏手で大急ぎで降りたんだぜ?
大きい屋敷だから、
日頃ちょっと遠いところを走ってる運ちゃんには
十分病院に見えたかもだよなと。
随分なトリックをご披露してから、
「だから。
明日の朝に帰るな。おやすみ。」
「だから…おいおいこらこら。」
とこてこと、部屋の壁際に据えられてあったベッドへ向かい、
勝手によじ登って布団の中へともぐり込む小悪魔さんだったりし。
まあ、まだ十歳かそこらのお子様には、
とっとと寝たほうがいい時間帯ではあるのだし。
このお家でのお泊まりも、今に始まったことじゃあないんだし。
“〜〜〜まあ、それはそうなんだが。”
何と言いますか、
肝心な“ハッピ・バスデイ”の一言くらい、
あってもいんじゃありませんかと思ったらしいお兄さんへ。
その懐ろへ むぎゅう〜〜〜っとしがみついてから言ってやるんだと、
構えておいでらしい坊やの第2作戦が炸裂するまで、
あと5分ほど……。
〜Fine〜 11.01.27.
*すいませんすいません、うか〜〜っと忘れておりました。
つか、オフの方にてちょっとドタバタしてたもんで、
日を限ったものを覚えていられる余裕がなかったようで。
あらためまして、
ルイさんお誕生日おめでとうございますvv
坊やも書き手もともどもに、
まだまだ遊んでやってくださいませね?
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